「なんだ?明後日じゃマズかったか??」
「いや別に…ちょっと急だったから。」

おっちゃんは喜色満面だったが…ボクには、まだ現実感が無い。すると、曖昧に返した答えにガッカリしたのか、おっちゃんは顔を曇らせて頭を掻いた。

「そうか…いきなり過ぎたかなぁ。ほら、明日は紫の《継承式》だろう?それに続いて庸一郎も、蒼摩の継承式をやるって云い出したんだよ。それでウチも便乗しようかと思ってな。」

「蒼摩が。」

そうか。いよいよ彼も当主になるのか。
でも、『便乗』とは…?

「他家と合同で《継承式》を催す事は、昔から良くあるんだよ。当主の代替わりは、祝賀行事だからね。慶び事は盛大な方が良い。」

 祐介が然り気無く補足すると、おっちゃんは『そうそう』と頷きながら話を引き継いだ。

「まぁ、なんだ。つまり、そういう事だよ。今回は甲本、姫宮、神崎の三家合同で《継承着任式》を行う事にした。どうだ??なかなか派手で良いだろう?」

 …派手だとか地味だとかの評価は、良く解らない。

が、断る理由が無いのも確かだ。目立つ事は苦手だが、お祝い事だというのなら、此処の流儀に従う迄である。

「うん。まぁ、いいけど…」

 不承不承に相槌を打つと、おっちゃんはグイと顔を寄せて言った。

「いいか?大事なのは、この後だ。これが終わったら、お前もいよいよ本格的な加行に入る。」

「加行(ケギョウ)?」

「そうだ。山に籠って、百日間の修行に入るんだ。俺達は、《百日行》と呼んでいる。」

 百日行──。
三ヶ月以上にも及ぶ山籠もり修行。
天解、降伏、封縛、慰霊。
式神遣い、浄霊、還霊…護摩に供儀。

行者として、当然修めておくべき《基礎行》を身に付ける為に、外界から遠く離れた場所で、百日間も修行をするのだ。

 この《基礎行》を終えたら、通常は次の段階である《専門行》に進む。

特に高い能力を発揮した分野を伸ばす為に、各々が専門の師に就いて、行を極めていくのだ。

天解の行者、降伏の行者、慰霊の行者…という様に。