「食えば?」

食卓の向こう側で、頬杖を付きながら一慶が言った。

「い…良いのかな、食べて?」

「いいも何も。お前、腹減ってんだろ?」

「うん。じゃあ、いただきます。」

 苺が気を利かせて、お櫃から白飯を盛り付けてくれる。小さく手を合わせてから、炊き立てのご飯をパクつくと、幸せで胸がジンと熱くなった。

美味い!!
やはり、柴崎さんの料理は、どれもが絶品だ!

「美味しそうに食べるね、薙は。」

祐介がニコニコ笑いながら言う。

「あれ?祐介は食べないの??」

「…あぁ、僕は良いんだ。ぼちぼち食べるから気にしないで。キミは遠慮しないで、沢山おあがり?」

「?…うん…」

 祐介の言葉に何やら含みを感じたけれど、結局、箸を止める事が出来なかった。

カチャカチャカチャ…。

食器の触れ合う音だけが響く部屋で、皆の視線がボクに集中する。こんなに美味しそうな料理を前に、誰も食べようとしない。

 どうにも気になって、ボクは訊ねた。

「あの─…皆、食べないの?」
「あら、いいのよ。気にしないで。」

「そう言われても、気になるよ。ねぇ、どうして一緒に食べないの?」

「まだいいの、アタシ達は。」

???
何だか様子が可笑しい。
どうしてボクだけ?

 と、そこへ。
ドタドタという足音と共に、懐かしい巨躯が飛び込んで来た。

「よう、薙!食ってるか!?」
「おっちゃん!」

「久し振りだな~。留守中色々と大変だった様だが、その割には元気そうじゃねぇか!え!?」

 おっちゃんこと甲本孝之は、ズカズカと大股に歩み寄ると、ボクの傍らにデン!と胡座を掻いた。以前よりワイルドさが増した様な気がするのは、この熊の様な無精髭の所為だろうか?

 席に着くなり、おっちゃんは豪快に笑いながら言った。

「薙、お前の《当主着任式》の日取りが決まったぜ。今週の土曜日だ!」

「え?──んぐっ!!」

 驚きのあまり、煮物が喉に詰まる。

「薙、大丈夫?!」

遥に水を貰って、どうにか飲み下したが…ボクの動揺は収まるどころか、益々混乱するばかりだった。

「ど、土曜日って…明後日じゃないか!?」