夜が明けて──。
ボクは、酷い頭痛と共に目が覚めた。

目の奥がズキズキする。
それでも何とか身を起こし、腕を高く差し上げた。

 時計の針は、既に正午を回っている。

「え…もう、お昼?」

驚いて視線を巡らすと、開け放たれた雨戸の向こうに、紅く色付く楓が見えた。

 濡れ縁を吹き抜ける柔らかな秋の風。

舞い散る紅葉の軌跡を辿って視線を移動させれば、書院を飾る丸窓の障子越しに、爽やかな陽射しを感じる。

 少し、寝過ぎたかな。
そろそろ起きなくちゃ…。

気力を振り絞って布団から抜け出し、ゆっくり立ち上がった途端、グラリと世界が揺れた。思わず、壁に手を付く。

 なんて酷い立ち眩みだ。それに、この頭痛。
ずっと眠っていなかった所為だろうか?
予想外に、疲労が溜っていた様だ。

「薙さま、お目覚めですか?」

 ふと、御簾越しに声を掛けられた。
驚いて振り返ると、いつの間にやって来たのか、そこには遠慮がちに控える氷見の姿があった。

「氷見…おはよう。」
「御早うございます。もうお昼ですが。」

おかしそうに笑う氷見を見ていたら、ホッと肩の力が抜けた。

「お食事をなさいませんと…」
「うん。今、そっちに行くから。」

そう言って御簾を上げ、寝所を出た途端、またしても足がもつれた。大きく前に傾いだ体を、瞬時に氷見が抱き留める。

「大丈夫ですか?」
「ごめん…ありがとう。」
「いえ私は。それより、薙さま…」

 氷見の大きな手が、ボクの額に当てられる。

「失礼。昨夜も、酷いお熱でしたので。」

熱…?
昨夜、ボクは熱を出したのか?
何故だろう、まるで覚えていない。

「薙さまは丸二日もの間、眠っておいででした。その間、何度も発熱があって…昨夜は特に高い熱が。祐介さまが、付きっきりで看ておられました。」

「祐介が?」

「はい。何度か交代を申し出たのですが…どうしても譲って頂けませんでした。『これは僕の特権だから』と、それは楽しそうに仰有って。」

楽しそう?
何故、楽しそう??
何やら嫌な予感がする。
いや。深く考えるのは、止そう…