力無く俯いた、その時。
ボクの両肩に、フワリと緋衣が掛けられた。
驚いて見上げた視線の先に、一慶の穏やかな微笑みがある。

「自信持てよ。」

 その声は、いつになく優しかった。
だから、ボクは困ってしまう。

また、気持ちを見透かされた。
心を読まれた感じは無いのに──どうして、この人には解ってしまうのだろう?

どうして、一番不安な時に、いつもボクの側に居てくれるのだろう?

 もう殆んど泣きそうになっているボクに、一慶は留目の一語を放つ。

「なかなか似合っている。」
「…え?」

「娘に贈る花嫁衣裳みたいなもんだろう。着てやれよ、親父さんからの贈り物。」

「でも…」

「自分の名前なんて入っていなくても、解るだろう?これは伸さんが、お前の為だけに誂(アツラ)えた僧衣なんだ。それだけで、もう充分じゃないのか?これ以上、我が儘を云うな。」

 優しい叱咤が降って来る。
ボクの手の上から、空になった畳紙がパサリと落ちた。同時に目の端から頬を伝って、暖かい雫が溢れ落ちる。

 泣くつもりなど、無かったのに。
…気が付くと、一慶の腕の中で、声を殺して泣いている自分が居た。