ボクの疑念を見抜いた一慶が、ポンと頭を叩いて言う。

「こら。泣きそうな顔すんな。」

「だって、これ…。ボク以外の人に贈られた物かも知れないじゃないか。ボク宛ての物なら、何処かに名前が入っている筈だもの。」

 そう言うと。
一慶は、驚いた様に片眉を吊り上げた。

「そんなに自分の親父さんが、信用出来ないのか?」

「……。」
「仕方の無い奴だな。」

 呆れた様に溜め息を吐くと、一慶は緋袈裟を畳の上に展げた。

「この袈裟の柄を、良く見てみろ。」

 真新しい錦の袈裟には、壁画とは全く別の図柄が描かれていた。

目映い銀糸の鳳凰。
その翼は、角度によって虹色に輝く。
取り囲む様に散りばめられたのは、色採りどり、いくつもの『星』達だ。

艶やかな絹の光沢を帯びて、宝石の様に煌めいている。

 裾に向かって拡がる波模様…これは『海』を表しているのだろうか?鳳凰が目指す岸には、霞を纏った高い山が描かれている。

その山の陵線と重なる様に、『太陽』と思われる金の球体が浮かび、明るく宇(ソラ)を照らしていた。

「……凄い。」

 ボクは思わず、呟いた。
一慶は云う。

「ここに描かれた鳳凰は、お前自身だ。展げた『銀の翼』は《首座》を、『金の瞳』は《神子》を表している。金・紅・青・黒・黄・緑…六つの『星』を従えて雄飛する姿は、伸さんが願う六星一座の『理想』の形と云える。これは、伸さんがお前に贈る、父親としての『最後』のプレゼントであり、首座としての『遺言』なんだよ。」

「遺言…?」

「今この時代に、金の目を持つ首座は、後にも先にも、お前しかいない。」

「……。」

 ボクは。畳紙に包まれた僧衣を、そっと手に取った。しっとりとした絹の重みと共に、首座としての責任が手の上に乗る。

重い…。
この緋衣に託された親父の願いが、どうしようもなく重く感じた。

…自信が無い。
これを着るに相応しい者なのかどうか…。