ボクは躊躇う事なく『鍵』を挿し込み、右へ回した。
──刹那。壁の向こうで、カチャリと、封印が解き放たれる音がする。鳳凰の頭部が描かれた辺りが小さな『扉』になっていて、鍵を回した途端、ほんの少しだけ浮き上がった。
「やっぱり此処だ。」
50cm四方の扉を手前に引けば、其処は小さな『物入れ』になっている。内側には、桐材で出来た小さな観音扉が填め込まれていた。朱色の房が下がった取っ手を引くと、中には、畳紙(タトウシ)に包まれた朱色の衣が納められてある。
「これ…着物?」
「いや、僧衣だよ。緋の衣に緋の袈裟…。緋色は、『一山(イッサン)の首座』だけが纏う事が出来る『特別な色』なんだ。」
緋衣(ヒゴロモ)に緋袈裟(ヒゲサ)…。
首座だけが身に纏う事を許された色。
畳紙の下には、他にも和紙に包まれた様々な物が置かれていた。
緋色の紐で組まれた修多羅(シュダラ)と呼ばれる装身具。
扇と念珠(ネンジュ)。
それ等を収める為の、ふくさ。
「これは全てお前の物だ。」
「どうして解るの、そんな事?」
「これに、そう書いてある。」
一慶は、小さな紙切れを差し出した。
「衣と一緒に入っていた…伸さんから、お前に宛てた恋文(ラブレター)だよ。」
金箔を散らした風情ある和紙の便箋に、見覚えのある文字が踊っている。
間違いない…これは、親父の字だ。
ドキドキしながら便箋に目を走らせると、そこには、こんな事が書かれていた。
『次代を担う者へ。
聖道の願いと共に僧衣一式を贈る』
短い文面に、親父の精一杯の思いが籠められていた。
『次代を担う者』──
それは、ボクの事なのだろうか?
──刹那。壁の向こうで、カチャリと、封印が解き放たれる音がする。鳳凰の頭部が描かれた辺りが小さな『扉』になっていて、鍵を回した途端、ほんの少しだけ浮き上がった。
「やっぱり此処だ。」
50cm四方の扉を手前に引けば、其処は小さな『物入れ』になっている。内側には、桐材で出来た小さな観音扉が填め込まれていた。朱色の房が下がった取っ手を引くと、中には、畳紙(タトウシ)に包まれた朱色の衣が納められてある。
「これ…着物?」
「いや、僧衣だよ。緋の衣に緋の袈裟…。緋色は、『一山(イッサン)の首座』だけが纏う事が出来る『特別な色』なんだ。」
緋衣(ヒゴロモ)に緋袈裟(ヒゲサ)…。
首座だけが身に纏う事を許された色。
畳紙の下には、他にも和紙に包まれた様々な物が置かれていた。
緋色の紐で組まれた修多羅(シュダラ)と呼ばれる装身具。
扇と念珠(ネンジュ)。
それ等を収める為の、ふくさ。
「これは全てお前の物だ。」
「どうして解るの、そんな事?」
「これに、そう書いてある。」
一慶は、小さな紙切れを差し出した。
「衣と一緒に入っていた…伸さんから、お前に宛てた恋文(ラブレター)だよ。」
金箔を散らした風情ある和紙の便箋に、見覚えのある文字が踊っている。
間違いない…これは、親父の字だ。
ドキドキしながら便箋に目を走らせると、そこには、こんな事が書かれていた。
『次代を担う者へ。
聖道の願いと共に僧衣一式を贈る』
短い文面に、親父の精一杯の思いが籠められていた。
『次代を担う者』──
それは、ボクの事なのだろうか?