結局…最後は此処へ来てしまった。
《瞑想室》──ボクにとっては、あらゆる意味で『特別な』部屋だ。

どうやらこの中には、親父が仕組んだ秘密が隠されているらしい。

 いつになく緊張しながら…。
ボクは、閂(カンヌキ)を外した。
観音扉を、ゆっくりと開け放った途端、柔らかな白壇(ビャクダン)の妙香に包まれる。

一慶が、慣れた様子で室内灯を点けると、忽ち、部屋の壁一面に、銀の翼を展げた鳳凰が浮かび上がった。

 いつ見ても凄い迫力だ。
眺めているだけで、不思議と力が漲る。

「さて、来たは良いが…鍵穴らしき物が見当たらないな。」

 腰に手を当てて、一慶が室内を見回した。
確かに。この鍵が納まりそうな場所は、何処にも無い。だが──

「ボク…解るよ。何処で鍵を使うのか。」

そんな言葉が、無意識の内に口を突いて出た。
…何故だろう?ボクは、『最初から』それを知っていた気がする。

「薙…?」

 怪訝に眉を寄せる一慶に小さく微笑を投げてから──ボクは、鳳凰の『頭部』が描かれた壁と対峙した。

手を伸ばし、そっと絵に触れる。
漆喰のヒンヤリとした肌触りが掌にシン…と染みた。

 以前は、指先が触れただけで、静電気の様な痺れが走ったのに、何故か今はそれが無い。

部屋の『主』である鳳凰が、ボクを認め…受け入れてくれている。そんな気がした。

 それは、先代首座である親父が、ボクにそれを許したのと同義だ。少なくとも、ボクには確信がある。この『鍵』を納める場所があるとすれば、それは…

「此処だ。」

鳳凰の左目。
良く目を凝らすと、其処に小さな虚(ウロ)が視える。

神子の眼にしか映らない、この小さな空洞こそが、鳳凰の鍵を穿(ウガ)つ『鍵穴』に違いなかった。