「祐ちゃんは、こっち!苺の隣よ~!!」

 突然。苺の脳天気なアニメ声が割って入ったので、二人の緊張が解けた。…絶妙なタイミングだった。

流石は、苺。他人の心の声が聞こえると、豪語するだけの事はある。あっという間に、不穏な空気が緩んだ事に、ボクはホッと安堵の溜め息を吐いた。

 恐らく。
これが彼等の『呼吸』なのだろう。
打つかり合う前に、誰かが水入りにする…そんな特有のテンポがある。

空気の読めないおっちゃんには、何のフォローも期待していない様だけれど…それさえも恐らくは、長い付き合いの中で培われた妥協なのだ。

 生憎。ボクには未だ、そうした空気感が掴めない。借りて来た猫の様に、大人しく様子を伺っているのが精々だ。

 僅かな疎外感に打ちひしがれていると…おっちゃんが、呑気者特有のオーラを撒き散らしながら訊ねた。

「なんだ、祐介。薙とはもう話たんじゃないのかよ?」

「そうだけど…あの場は未だ、医者と患者という立場だったからね。昨日から、バタバタと落ち着かなかったし、薙も頭の整理が着かないだろう。お互いを知る為にも、ここらで一度ちゃんとした自己紹介をして措くべきじゃないかな。ね、薙?」

「…え?…あ…うん。」