「あぁ…これこれ!懐かしいな、この衣装箱。」

「衣装箱?」

「あぁ。この中には、伸さんが生前に使っていた袈裟や法具が入っているんだよ。…開けてみるか?」

「え、でも…。」

「これは、お前の親父さんの遺品だ。実の娘のお前が開けたところで、誰も責めたりはしない。」

 そんな事を言われちゃうと弱い。
遠慮も理性も吹き飛んで、無性に開けてみたくなる。

 ボクは小さく深呼吸してから、衣装箱の蓋を開けた。中には、使い古されて擦りきれた念珠や経典が、大切に保管されている。

 他にも、子供時代に使っていたらしい稚児装束や冠、ノートや写真などが納められていた。細かい記念の品々が年代順に整然と並べられていて、親父が歩んだ道程が良く解る。

 そうした雑多な身の回り品の下に、畳紙(タトウシ)に包まれた袈裟一式が入っていた。

中でも一際目を引くのが、見事な刺繍を施した朱色の袈裟である。

金糸銀糸が織り為す光の海の上を、優雅に飛翔する鳳凰の図柄。この構図には、見覚えがあった。

「これ…この鳳凰、どこかで…」

 思わず手に取った、その時。
カシャ──ン!と鈴を投げた様な音を立てて、金属片が床に落ちた。

「何だろう、これ…鍵??」

 落ちた物を手に取って良く見ると…それは、大昔の『鍵』の型をしていた。持ち手の部分に、鳳凰の透かし模様が施されている。

「何の鍵だ?」

「さぁ。でも、この図柄…前に何処かで見た様な気がする。この袈裟の柄も─…。」

「鳳凰だな。」
「うん…」

 暫しの沈黙の後。
ボクらは、互いを指差して叫んでいた。

「瞑想室の…!」
「鳳凰の壁画!?」