他愛ないお喋りを続けている内に、早鐘を打っていた鼓動もすっかり落ち着いた。呼吸が楽になった途端、ふと、部屋の様子が気になり始める。

 改めて見渡すと、『奥の院』は本当に狭かった。三畳半程のスペースに、濃密な『祈り』が満ち満ちている。

特に目を引くのが、中央に据えられた黒檀の厨子(ズシ)だ。ピタリと閉じられた観音扉の向こうから、漲走(ミナハシ)る清浄な霊気を感じる。

 『中』は見えないけれど──。
頻りに、ボクを呼んでいる気がした。

「凄いね、此処。空気がピンと張り詰めて…息が詰まりそうだ。」

「この屋敷で、最も神聖な場所だからな。特殊な結界が幾重にも張ってある。邪まな者は近付く事すら出来ないんだ。」

 …成程。この息苦しさは、秘仏に込められた高潔な威圧感の所為だったのだ。全力疾走した事だけが理由じゃない。

「折角だ。甲本家の家宝を見てみるか?」
「えっ?怒られるよ…。」
「平気だ。厨子を開けなきゃ問題無い。」

 ──そんな事を言って。
一慶は、鳳凰の蒔絵が入った、豪華な衣装箱を引っ張り出した。