「お前ら…何だよ、今の会話?」
「聞き捨てならない言葉の数々…。」

 殺伐とした空気が流れた。
恐い。そんな目で見ないで、二人共。
たじろぐボクに、遥がグッと顔を近付ける。

「な~ぎちゃん?ちゃんと説明してくれるかな?? 二人きりで、毎晩何をしていたの?」

 ──誤解されている。
それも、とんでもなくマズい方向に!

「三日間徹夜でお泊まり?」
「いや、それはだから!」
「可愛くおねだりって何??」
「いや、誤解だよ!全然意味が違う!!」
「じゃあ、どういう意味?」
「そ、それは…」

 凄む遥に続いて、烈火が会話に割り込んで来る。

「説明出来ない事をしていたのか!?」
「違う違う、誤解だってば!」

 怒り心頭に達した烈火と遥には、必死の弁解も通じなかった。何を言っても、火に油を注ぐ結果になってしまう。

「抜け駆けなんて酷いよ、いっちゃん!」

 突然、遥の矛先が一慶に向いた。
恨めしそうな上目遣いで見上げる顔は、まるで柳の下に立つ幽霊の様だ。

「俺が爺ぃに監禁されているのを良いことに…君達、随分仲良くなったじゃない?? この数日で、一体何があったのさ!?」

「まぁ…色々と。」

「だからその『色々』の詳細を語って聞かせんかぃ、あぁ!?」

 豹変した遥が、突如、一慶の胸ぐらを掴んだ。怒り狂う彼は、羅刹よりも恐ろしい。背後に火炎の幻影が見えた…気がした。

 一慶は、うんざりと嘆息して言う。

「抜け駆けって…あのな。俺は、こいつの相談に乗っていただけだって。」

「ほう、朝まで二人きりで?」
「だからって、別に何かあった訳じゃ…」
「当前やろ!あったらアカンのじゃ!!」

 舌を巻いて怒鳴り散らす遥の傍らでは、烈火が拳をポキポキ鳴らして睨んでいた。

 万事窮す。
追い詰められたこの状況下で、何を思ったか、一慶が不意に天井を指差す。

「見ろ、遥。」
「…なんじゃい?」
「爺ィの生霊がいる。」
「えっ??」

 遥と烈火が同時に天井を見上げた瞬間…

「行くぞ、薙!」
「えっ?」

一慶はボクの手を引いて、脱兎の如く駆け出した。

 走って走って、とにかく走って。
ボク等は命からがら、修羅場から脱出したのである…。