「何だか急に寂しくなっちゃった…。」

 甲本家の無駄に広い玄関で、ボクは寂しく独りごちる──すると。いつの間にか隣に並んでいた一慶が、ポンとボクの肩を叩いて言った。

「良かったな、これで一件落着だ。今夜からは、お互いゆっくり眠れる。丸く収まって万々歳じゃないか。」

「解らないよ?また何か、不測の事態が生じるかも。」

 冗談のつもりでそう言ったら、一慶は心から厭そうに眉根を寄せた。

「…おい、勘弁してくれよ。流石の俺も、四日連続はキツイぜ。今夜は、ゆっくり寝かせてくれ。」

「三日間、徹夜で頑張ったもんね…。」

 確かに眠い。
眼球が乾いてバリバリする。
目の下の隈が目立っていないか心配だ…。

「…思い出したら、急に頭が痛くなってきた。」

寝不足の所為で瞼が重い。
頭もズキズキ痛み始めた。
こうなる事が解っていたら、さっき祐介に癒霊して貰ったのに…なんてタイミングが悪いのだろう。

 眉間を押さえて俯くと、一慶がボクのこめかみに拳を当てて、グリグリ回し始めた。

「痛たたたた!ちょ…何すんの、急に!?」
「頭痛に効くツボだ。我慢しろ!」

「ツボ──?? いやいやいや。とんでもなく痛いんですけど、これ!」

「辛抱しろよ、これ位。大体、お前が無駄に動くからいけないんだろう!? 真夜中に、いきなり押し掛けて来て『おねだり』してんじゃねぇぞ!あんな時だけ可愛い声出しやがって…あれじゃ断れねぇだろ?」

「ごめん。謝るからもうやめて、痛いって!」

「効いている証拠だ。その内、痛みが快感に変わる。」

嘘だ!!
これは、唯の意地悪だ!

「痛い痛い、痛いってば!一慶!!」

 一慶の拳をパタパタ叩いて、漸く解放される。

…痛かった…。
涙が出ちゃったじゃないか、くそー!

「でもまぁ…これで当分、お前の『お泊まり』も無しかと思うと、ちょっと残念な気もするけどな。」

「何それ?? またセクハラ?」

「バーカ。そういう冗談は、もう少し胸が育ってから言え。ガキの分際で、何がセクハラだ?干物みたいな体しやがって!」

「あ、ひどいっ」

 そんな遣り取りをしていると、不意に物凄い殺気を感じた。怒気を孕んだ視線が、背中に突き刺さる。

 二人で恐る恐るり返ると…其処には、鬼の様な形相の烈火と遥がいた。