「それと、もうひとつ報告があるんだ。」

 紫は真摯な眼差しで、ボクの目を覗き込んだ。

「明日、兄さんが出頭する。」
「真織が?」
「うん。ケジメだと言っていた。」
「そう…明日、か。」

 多分、厳しい取り調べがあるだろう。
何日も拘束されるのだろうか?
奥さんには何と伝えるつもりなのだろう??

 芥の様に、次々と疑問が浮かぶ。
すると…押し黙るボクを安心させる様に、紫は穏やかな物腰で言った。

「心配しないで、薙。いろいろ大変だろうけど…きっと大丈夫だよ。兄さんは強い人だから。」

「うん…。そうだね。」

 紫は、吹っ切れた様な晴れやかな顔で続けた。

「久し振りにゆっくり兄さんと話したよ。そして解った。兄さんは僕を嫌って、遠避けていた訳じゃない。自分の罪の代償が、僕に及ぶ事を避けたかったんだ。」

「そう…」

「兄さんは優しい人だよ。だけど、同時に脆くもある。母を止める事が出来なかったのも、そんな優しい弱さ故だと思う。」

「うん…うん。」

「魂魄を預けた事で、薙には何かと負担を掛けるかも知れない。けれど…僕の兄を、宜しくね?」

「うん…解った…」

 ボクは、上手く答えられなかった。
胸がいっぱいで、何をどう言って良いのか解らない。

 最後に。
紫は、そっとボクの手を取って言った。

「ありがとう、薙。」
「紫…。」

「約束する。薙の為にも、必ず向坂家を建て直すよ。僕は《黄泉の番人》だ。僕が護るあの土地を、第六天魔界の通路になんかさせない。」

 真っ直ぐに見詰めるその眼差しは、不動の決意を秘めた、大地の様な強さに満ちていた。