──そこへ。控え目なノックの音と共に、紫が入って来た。

「薙…いる?」

 ヒョイと顔を出した紫の変化に、ボクは驚き、息を飲む。

 黒い絹糸の様な長い髪が短く切られて、まるで別人の様になっていた。元から小さな顔が、益々小さく見える。

「紫、髪切ったの?」

「うん。今ね、遥が来てくれたから、速攻で切って貰ったんだ…変かな?」

「ううん、とても良く似合っている。」

 ボクの言葉に、紫は、はにかんだ笑みを見せた。

「──あのさ。僕、《当主継承式》を行う事になったんだ…。」

「紫、当主になるの??」

「うん。さっき、父さんと兄さんと三人で話し合って決めた。それでその…良かったら薙も参席してくれないかな?」

「それは勿論!呼んで貰えるなら喜んで行くよ。でもじゃあ、あれはどうしたの?例の、ほら…!」

「あぁ…《黄泉の番人》の継承秘術のこと?それも、さっき承け継いだ。もう、正式に当主として立てるんだよ。」

「そうなんだ…。秘術って云うから、何か難しい儀式を行うのかと思った。」

「儀式…?」

 紫は一瞬キョトンしてから、肩を竦める様にして笑った。

「番人の秘術は、口伝(クデン)で継承するんだ。新旧の当主が、ある言霊(コトダマ)を交互に百八回唱えて魂魄に打ち込む…。儀式は特に必要じゃないんだよ。」

 「ふぅん」と頷いたものの…。
何をどうするのか、正直ピンと来なかった。

良くは解らないが、ともあれ万事巧くいったと解釈すべきなのだろう。顔を輝かせて語る紫が、少しだけ羨ましい。

 ボクの継承式は、いつになるのだろう?

晴れがましい顔の紫を見ていると、何やら待ち遠しくもある。