篝は、こんこんと眠っていた。
未だ顔色が悪い。
まるで、冬の月の様に蒼白だ。

染みひとつ無い透き通る肌は、重度の精神疲労の所為で、すっかり血の気が失せている。

 彼女が完全に回復するまでに、一体どれ程の時間が掛かるだろう?

「早く治りますように…。」

 人知れず呟いて、小さな頭を撫でる。
サラリと零れる、濡れ羽色の髪。
ほんのり汗が滲む額を──ボクは、枕元のタオルでそっと拭った。

 暫くそうして病床に付き添っていた處ろへ、不意に部屋のインターホンが鳴る。

『薙、いるかい?』

これは、祐介の声だ──

『入っても良いかな?』
「うん、どうぞ。」

 声を潜めて返事をすると、直ぐに彼が入って来た。相変わらずの麗姿だが、心なしか疲れている様に見える。

「大丈夫、祐介?」
「何が?」
「いや…疲れているみたいだから。」

 そう言うと。
祐介の美貌から、すっと微笑が消えた。

「そうだね…疲れた。」
「え?」

「短時間の内に次々と患者が担ぎ込まれて、それを、たった一人で看なきゃならなかったからね。疲れたよ…流石に。」