「紫のお袋は、後妻だったよな?最初から、玲一を嵌めるつもりで近付いたって事か??」

 勘繰る様に半眼を眇(スガ)める烈火に、庸一郎が言った。

「いや…千里さん自身は、恐らく何も知らなかったろう。邪悪な下心があれば、玲一も気付く筈だからね。蒼摩の話から察するに、鈴掛一門は、随分前から薬子の依代を所有していたと考えられる。薬子の本体を、魔鏡の『影』に移し換え、長い時間を掛けて狐に仕込み、ごく自然な形で向坂家に潜伏させた…というのが、真実だろう。勿論、《黄泉の門》を開放する事も目的の一つだ。…そうして最終的には、六星一座を内側から崩そうとしたんだ。」

 確かに一連の事件には、明らかな計画性を感じる。

封印が緩み掛けた天魔の依代を奪い、故意にそれを解き放ったと考えるのが妥当だ。

「実に良く練られた作戦や。我々の一番弱いとこを、的確に突いてきよる。六星は、身内には甘なるからな。」

「じゃあ、戦時中に信長の依代を奪ったのも──やはり?」

「彼等かも知れませんね。」

 皆が次々に自分の考えを口にする。
もしも鈴掛一門が、全ての事件の黒幕だとしたら、彼等との一騎討ちは避けられない。

六星一座は、天魔討伐だけではなく、外法衆の調伏にも乗り出す事になるだろう。

「仮に…一連の事件に鈴掛一門が絡んでいるとして。彼等は、六星と真っ向勝負をするつもりなんだろうか?」

 胸に沸き上がる不安を、ボクはそのまま言葉にした。

「調べましょう。」

それに呼応して毅然と顔を挙げたのは、姫宮庸一郎である。

「この件は裏一座にお任せ下さい。徹底的に調べ上げ、必ず裏を取ります。ここまで手間暇掛けておちょくられたのでは、六星一座の立つ瀬が無い。」

キッパリ宣誓する庸一郎は、珍しく憤っていた。

 こうして…。

裁定会に投げ込まれた禍いの火種は、この先ますます大きな波紋を拡げながら、皆を巻き込んで行くのだった。