蒼摩は、手の中の魔鏡を指先でピンと弾いた。

「もう一つ…何か引っ掛かりませんか?」
「何かって?」

「宮司一家とやらが失踪した年の事です。六年前と言えば──」

「お母さんが離れに引き篭った日だ。」

 蒼摩の謎掛けに答えたのは紫だった。

「六年前、お母さんは突然、離れに行くと言い出して、黄泉比良坂を昇った。それから間も無く血を吐いて死んだんだ…僕の目の前で。」

 紫の背中が、小さく震えている。
思い出すには辛すぎる過去に、敢えて自ら触れたのは、彼の成長を意味しているのだろうか?

 少なくとも。
今の紫は、無邪気な子供じゃない。

《土の星》を…《黄泉の番人》を継ぐべく仏に遣わされた、六星行者の一人だ。

 現実に立ち向かおうとする健気な紫に、蒼摩は敢えて苛酷な真実を突き付ける。

「千里さんが狐憑きになったのも、その後亡くなったのも…多分無関係ではありません。」

「お母さんは利用されたって事?」

 紫の問いに、蒼摩は無言で見詰め返した。

「いいよ、はっきり言って。」
「…はい。」

僅かに双眸を眇めると、蒼摩は紫を見据えて言った。

「全ては、仕組まれた罠だったんです。千里さんが、玲一さんと出会った事も…。その後に起きた事件も、全部が。」

「そんな昔から…?」

「えぇ。千里さんが霊媒体質だった事を利用して、玲一さんと引き合わせ…《狐憑き》になってからは、その身に天魔を仕込み──更に。用済みになった途端、呪殺した。そう考えれば辻妻が合います。」

…酷い。そんな風に人の命を、人生を滅茶苦茶にするなんて!

そこまでするのか、鈴掛一門は!?