戦争により失われたものは、あまりにも多い。沢山の人命と共に、空襲で焼失した寺社仏閣も少なくなかった。

現在行方知れずになっている依代は全て、戦時中に紛失したものだ…だが。信長の依代だけは、どうも状況が違うようだ。

「無くしたのではなく、奪われたのだとしたら、一体誰が持ち去ったんだろう?」

「そこなんです、問題は。」

 庸一郎が重々しく首肯した。

「天魔の依代を遷し換える程の力を持つ者となると、大体限られて来るのですが…」

彼には心当たりがあるようだった。
否。彼だけでなく、その場の全員が同じ事を考えてる。

「皆、何か知っているんだね…何なの?」

「………。」
「………。」
「………。」

誰も何も答えない。
只、無言で目配せをし合っている。
ボクは、妙な胸騒ぎがして仕方が無かった。

 束の間の沈黙の後…。
烈火が、神妙な面持ちで口を開く。

「六星一座に敵対する行者は多いぜ。もう随分昔から、そんな感じなんだ。未だに『行競べ』に来るバカもいてさ、結構ウザいんだよな。」

「行競べ?」

「お互いの行神力を競うんだ。つまんねぇ張り合いさ。イチイチ相手にしてらんねぇから、普段はシカトするんだが…。中には、ちょっとシャレになんねぇ奴等も来るんだ。」

 シャレにならない?
どういう事だろう??

烈火の話を訊いた途端、ボクはソワソワと落ち着かなくなった。…胸騒ぎが止まらない。

「そのシャレにならない奴等って…誰?」