何やら──凄い事になってしまった。
親父がそんな特殊な一族の当主だったなんて…俄(ニワ)かには、信じられない。

ボクの知る限り。
親父は、しがない公務員で──残業や出張が、人よりやや多い他は、至って普通の生活をしていた。

「そりゃ『世を忍ぶ仮の姿』って奴だよ。まぁ、公務員には違いないけどな。」

おっちゃんは言った。

「え?行者って、公務員なの?」

「公式には伏せられているが、な。六星一座は《宮内庁式部職》と云って、皇室の蔡礼関係を裏でサポートする役職を頂いてるんだ。何しろ、平安時代から天皇家の庇護を承(ウ)けている一族だからな。代々、怪異を除く仕事を任されているのさ。」

「こ──っ、皇室?!」

「おぅよ。それだけじゃねぇぞ。他にも『内閣特別捜査室特殊捜査官』っていう、ご立派な肩書きもあってな?公安調査庁や警察関係の捜査に、全面協力しているんだ。」

「そっ、そんなに凄い家だったの?」

 おっちゃんは、口元に不敵な笑みを湛えて頷いている。初めて知る衝撃的な事実の連続に、ボクはもう附いていけなくなっていた。

内閣やら皇室やら…。
とても現実とは思えない。

 ふと。ひとつの疑問が脳裡を掠める。
何故、親父はそんな由緒正しい家を出て、母さんと結婚したのだろう?

あんな山奥の村に棲み着いて──それはつまり、一族を棄てたという事なのだろうか?

 おっちゃんは言う。

「確かに兄貴は家を出た。だが決して家業や一族を棄てた訳じゃない。ちゃあんと毎日、この屋敷に来て、件の家業を消化(コナ)していたのさ。」

「え?じゃあ…毎日毎日、車で出勤していたのは…?」

「ここだ。兄貴は毎日、片道二時間も掛けて、この屋敷に『出勤』していたんだ。此処は兄貴の生家であると同時に、大事な職場でもあるからな。」

 ボクは開いた口が塞がらなかった。
何しろ、親父は県庁勤めだとばかり思っていたし、親父自身も、ずっとそう言い続けていたのだから…。

内閣…内閣──特別捜査室?
内閣府に、そんな外局があっただろうか??
仮にあったとして、そこに籍を置くのなら、六星行者は国家公務員という事になる。

 騙された…
親父は、県庁務めの地方公務員ではなかったのだ。

一体どうして、そんな嘘を──??