蒼摩が怪訝に片頬を歪める。

「首座さまは、どこでそれを?」

「薬子の霊体に触れた時に…何故だか自然に解っちゃったんだ。鏡そのものではなく、その仕掛けの中に、彼女が封印されているって…」

「成程。魔鏡だったんですね、これ。」

蒼摩は、細い指で顎に手を添えた。

「何だよ、その…《魔鏡》って?」

 眉間に皺を寄せる烈火。
ボクは、その仕組みを簡単に説明した。

《魔鏡》とは──

鏡面に光を当てて壁などに反射させると、そこに絵が浮かび上がるという、特殊な加工を施した青銅製の鏡だ。

 表面を薄く研いて、微妙に湾曲させる事により、鏡面の裏に彫り込んだ模様が光の中に映し出される。

迫害されたキリシタンは、この魔鏡に十字架等を彫り込み、光を当てて浮かび上がった神の象徴に、祈りを捧げたのだ。

 つまり、大切な何かを隠すには打って付けの代物と言える。天魔の本体を封じるのに、これ程相応しい場所も無い…。

「蒼摩。ちょっと、これ持って。」

 ボクは、蒼摩に魔鏡を預けると、壁に映った蛇の絵に近付いた。

「薬子、お前の脱け殻だ。受け取れ。」

そう語り掛けてから、蛇の絵に向かってフゥッと息を吐く──すると。

空になった薬子の霊魂は、ユラユラとボクの中から抜け出して、蛇の絵の中に吸い込まれた。 光の中で、蛇がモゾリと蠢めく。

「今のが薬子か?何だか、空っぽだったけど。」

烈火の問いに、ボクは苦笑を閃かせた。

「空っぽだよ。ボクが中身を握り潰しちゃったから。」

「は?」
「え??」

「──ごめん。口を割らせようとして強く握ったら、潰れて消えちゃったんだ。力加減が解らなくて、つい…」

「………」
「………」
「………」

 短くて重々しい沈黙が訪れた。
皆、心底呆れている。

それもそうだろう。
霊体に格を落としたと謂えども、相手は天魔だったものだ。ボクは、それを握り潰したのだから…。

「薙、この馬鹿力!」

一慶は、腹立たしげにボクの頭を小突いた。

「深追いはするなと言っただろう!?」
「面目無い…。」

「お前という奴は、全く…!何一つ、此方の言うことを聞きゃしない。天魔に毒されて命を落としたら、元も子も無いだろうが!無鉄砲も大概にしろ!!」