ボクの中から天魔の気配が消えた。

胸に当てた手を静かに引き抜き、ゆっくり目を開けると、皆が取り囲む様に覗き込んでいる。

「首座さま…お加減は?」

 庸一郎が訊ねた。

『大丈夫だよ』と答えて微笑むと、庸一郎は少し困った様な顔をして、力無く笑い返した。ボクを心配する気持ちと、無茶を諌(イサ)める気持ちとが、彼の中で錯綜しているのだろう。

いい人だ、蒼摩の『お父さん』は。

 あぁ、そうだ。
蒼摩と云えば──

ボクは、脱力した体を無理に引き起こして傍らを振り返った。

「蒼摩、さっきの《鏡》を見せて。」
「はい。」

 蒼摩が手渡してくれた鏡は、掌にスッポリ収まる程いの、小さな丸い銅鏡だった。ボクは、皆を見回して訊ねる。

「誰か、ペンライト持ってない?」
「ペンライト?何に使うんです??」

 右京が首を傾げる。
そこへ、宗吉翁がヒョイと手を挙げた。

「儂、持っとるで。ペンちゃうけど…。ホイ、こんで宜しいか?」

そう言って、懐から小さな携帯ライトを取り出す。

「この歳になるとな。暗いとこのモンが、よう見えへんのや。」

 成程。
それで、携帯ライトを持っていたのか。

ボクは宗吉翁に礼を言って、それを拝借した。光を鏡に当て、反射させると壁に白い円が映る。

良く目を凝らせば、円の中に奇妙な『画像』が浮かび上がっているのが見えた。

「何だ、これ?」

「へぇ…面白いね。光の中に絵が浮かんでいる。これは──蛇?」

烈火と紫が、ほぼ同時に声を挙げる。

「これは《魔鏡》だ。映っているのは蛇。これが薬子の本体だよ。」

 ボクの言葉に、皆が驚愕した。