安堵した拍子に力が抜けた。
ぐったり脱力したボクを、一慶がグイと抱き起こす。

「薙、お前──今、何をした??」

 ボクは、首を横に振って応えた。
息が詰まって会話が出来ない。

「何をしたんだ、言えっ!」

一慶が、焦れた様に怒鳴る。
薄目を開けると、ボクを見下ろす鋭い視線にぶつかった。

解っている。
彼は心配しているのだ…。
だけど上手く声が出せない。

 いつまでも返事をしないボクを見て、一慶の形の良い眉がギュッと寄り合わされた。

「お前…天魔を呑み込んだのか?」

その言葉に辛うじて頷くと、室内は一気に騒然となった。

「なんという無茶を、首座さま!」
「危険だ。それは──の術だぞ。」

──え、何?何の術だって??
激しい耳鳴りのせいで、鷹取の声が良く聞き取れない。

「首座さま。」

 ざわめきの中、馴染みのある声が囁いた。
渾身の力で薄目を開けば、蒼摩の端正な顔が霞んで見える。

「蒼、摩…来て、くれて…助かっ」

「喋らないで。僕が力を貸します。すぐにも薬子を《鏡》に封じましょう。」

「…それは…まだ出来ない…」
「出来ない?何故です??」

「コイツに…訊きたい事が、ある…。未だ…手を出すな……」

「そう、ですか。解りました。」

 ぎこちなく答えた蒼摩の美貌が、微かに歪んだ様に見えた。…彼なりに、心配してくれているのだろう。

駄目だな、ボクは。
いつまでも、皆を心配させてばかりだ。