脱力した篝の体を抱きかかえ、その胸にそっと手を充てる。すると…彼女の魂魄の周りに、フワフワと漂う怪しい『影』が見えた。

 これが、薬子の霊体か?
本体が《鏡》に封じられている為、元の半分以下の妖力も無い。

中途半端に生成された霊体は、宛ら霞の様だった。出来の悪いカラーコピーの様に、何層にもブレて視える。

 チャンスだ。
弱っている今なら、これを追い出せる。

本来の力を取り戻したら、そうそう簡単には祓えないだろう。

 ボクは、薬子の霊体を、自身の魂魄に取り込もうと考えた。

どうしてそんな事を思い付いたのか、それは自分にも解らない。だが、それが出来るという確信があった。

──その証拠に。神子の力に支配された体が、勝手に行動に移している…。

 ボクは、篝の胸に軽く指を充てた。
不動明王の真言を唱え、薬子だけを霊縛する。
そして篝の唇に自分の唇を重ね合わせ、無力化した天魔を口で吸い取った。

 薬子の霊体は、状態が不安定で、手で掴み捕る事が出来ない。これを《分霊》する事は、神子であっても不可能だ。

 篝の魂魄を傷付けず、薬子の霊体だけを取り出すには、他に方法が無かったのである。