「…さて、神子殿。そなたの飼い犬共が、一匹一匹、嬲(ナブ)り殺される様を、その金目で、篤(トク)と見届けるがよい。その後で、そなたの血肉を頂くとしよう。」

「…な、に…?」

 天魔はうっとり目を細めると、ボクの首筋に、つぅと舌を這わせた。

「そなたは、ほんに美味じゃのぅ。この柔らかな肉を食(ハ)み、温かい生血を啜れば、我等は千万の力を得る…。そなたの血と肉とが、我が命の糧と為るのじゃ。さすれば最早、妾は無敵!主様すら、我が元に伏するであろう。」

「か、勝手な…事、言うな!」

 苦しい息の下から必死の抵抗を試みる。

本来なら、実体も持たない落ちぶれた天魔など、凡そ、神子の敵ではない。

やろうと思えば、九字を切って吹き飛ばす事も出来るのだが…如何せん。奴の体は『篝のもの』だ。滅多な事は出来ない。

「くくくくくく…。動けぬか、甘いのぅ。こんな小娘の一人や二人、妾ごと吹き飛ばせば良いものを。今世の神子は、何とも手温るい。これならば、実体の無い妾でも容易に縊く事が出来るわ。」

「それはどうでしょうね。」

 部屋の片隅から、聞き覚えのある声がした。驚いて振り返ると、鳳凰を描いた襖を背に、痩身の少年が立っている。

「蒼、摩──!?」

姫宮蒼摩が、相変わらずの涼しい顔で立っていた。

「蒼摩…お前、何故!?」

 目を丸くする庸一郎に、祐介が説明する。

「僕が呼んだんですよ。…早かったね、蒼摩くん?お目当ての物は見付かったのかい??」

 祐介の言葉に、蒼摩は両の口角を少し持ち上げ、はんなりと微笑って見せた。歳に似合わぬその冷静さが、この場の空気を一変させる…。