張り詰める空気の中。

紫が、ゆっくりと歩み寄る。
苛烈な視線は、真っ直ぐ篝に向けられていた──否。篝の姿を借りた、天魔に。

「出て来い、天魔。篝から離れろ!!」

 いつになく荒々しい声音で紫が迫る。
天魔は、余裕と愉悦に満ちた表情で、冷酷にそれに応じた。

「──生憎。妾は、この娘が気に入った。若い体は良い。美しゅうて儚げで…おなごであった頃を思い出す。誰が出ていくものかよ。」

「成程…お前は、実体が無いんだな?依代に憑かなければ話も出来ない程弱っているのか??天魔にしてはお粗末だが、此方にとっては好都合だ。今すぐ其処から焙り出してやる!」

「…出来ると思うてか?」
「出来るさ。試してみるか??」

 言い終わるや否や、紫はズイと一歩を踏み出した。右手に刀印を結び、天魔に向けて真っ直ぐに突き出す。

「ほほほほほ!あな、勇ましや。これはまた何とも小気味良い若者よ!!」

 天魔は、喉を反らして高笑した。

「良い哉(カナ)良い哉。威勢の良い男子(オノコ)は好ましいぞ?時に、そなた。死人の匂いがするのぅ。もしや《土の星》…黄泉の番人の末裔か?」

「そうだ。貴様が滅ぼそうとした一族の者だ!」