獣の様に一声吠えるや──。

三つ目の鬼は、反撃を開始した。
長い腕を鞭の様にしならせ、振り回し…辺り構わず物を薙ぎ倒す。

皆、間一髪の處ろで、それを躱わしていた──が。如何せん、逃げ場が限られている。

会議場に使われている和室は二十畳程もあるのだが、この様子では、被害者が出るのも時間の問題だった。

 騒然とする室内。
襖が破れ、柱は傷付き、真新しい座布団が無残に引き裂かれる。

暴れる羅刹の凄まじさに、ボクは言葉も出なかった。大きな体に圧倒される。行者達も、おいそれと手が出せない状態だ。

 皆が反撃のタイミングを測る中…。
烈火だけは、臆する事無く羅刹に近付いて行った。

「こいつ!まだ暴れる気かよ?」
「よせ、烈火!」
「これ以上、奴を刺激するな!!」

 一慶と右京が異口同音に窘めたが、烈火はそれを聞き入れなかった。

「…やれやれ。難儀なこっちゃ。」

 宗吉翁が溜め息を吐く。

「こうなったら、もう止まりまへんで?なんせ、羅刹はアホやさかいな。」

 手負いの羅刹は、本当にアホだった。
めくら滅法、手当たり次第に襲い掛かって来る。まるで小型の台風だ。

髪を振り乱し、咆哮を挙げ、思う様暴れ狂う。

 バキィッ!
バン、バシィ──ッ!!

 物が壊れる音が、間断無く続いた。
部屋中が掻き回され、それは酷い有り様だ。
貴重な調度品が、次々に形を失っていく。

だが、誰しも逃げるのに精一杯で、この暴挙を止める事など出来なかった。

 一慶は、宗吉翁を振り向いて堪り兼ねた様に叫ぶ。

「何とかなんねぇのかよ、爺さん!?ご自慢の知恵はどうした?!」

「知恵や脅しが通じる相手かいな。一度こうなったら、もうあかんのや。自然に鎮まるのを待つしか無い。アンタ等も、下手にちょっかい出しなさんな。なんせ、羅刹はアホやさかい。」

「チッ!」

鋭く舌打ちした處ろへ、羅刹の腕が振り下ろされる。

 ブン!

「…っと、危ねぇ!」

 ヒラリと身を翻して攻撃を躱わす一慶。

そこへ、不測の事態が起きた。
目標を失った羅刹の腕が、運悪く其処に廻り込んだ烈火の体に、打(ブ)ち当たったのである。

 ズムッ!

鈍い音が響き、火の当主は弾き飛ばされた。