「六法十八道(ロッポウジュウハチドウ)の契印(ゲイイン)に入る!」

庸一郎が導師となって、皆に指示を飛ばした。

「浄三業(ジョウサンゴウ)…仏部三昧耶(ブツブザンマヤ)…蓮華部三昧耶(レンゲブザンマヤ)…」

 澄んだ声の導きに併(アワ)せて、全員が印を結んでゆく。

《六法十八道》とは、行者と行場(ギョウジョウ)とを浄化結界し、仏を迎え入れる作法の一つだ。

魔を祓い、心身を浄める事で、如来の力を顕現する為の環境を整える。

「…被甲護身(ヒコウゴシン)…金剛厥(コンゴウケツ)…。金剛牆(コンゴウショウ)…道場観…大虚空蔵(ダイコクウゾウ)…」

 難解な言葉と、複雑な印契(インゲイ)──。
そこに篭る深遠な意味合いは、仏の教えを行ずる者だけに明かされる真理だ。

 絡めては解き、解いては又絡める十八種の《力》。

仏の代弁者たるに相応(フサワ)しい行者でなくては解き明かせない、微密(ビミツ)の教義が、そこには在る。

荘厳な光景だ。
ひとつ印を結ぶ度に、部屋全体がキン!と張り詰めてゆくのが解る。

 そうして。
全ての修法を了(オ)えた後、本格的な降伏が始まった。