「羅刹との実戦経験がある者は?」

 ボクが訊ねると、ちらほらと手が挙がった。

宗吉、右京、庸一郎、鷹取…。
この四名は、流石に場数を踏んでいる。
とても心強い。

「首座さま。先ずは、結界を張り直さな。今の程度の簡易結界じゃあ、この先持ちまへんで?」

 宗吉翁のアドバイスで、ボクは鷹取に結界を張り直す様、命じた。

「あぁ立派な結界や。よぅ出来た。包囲網は《水》がええな。羅刹の属性は《火》ぃやさかい。」

 それを聞いて、庸一郎がテキパキと包囲網を廻らせる。やはり、年の甲だ。宗吉翁は、皆に的確な指示を出してくれる。

 各自が与えられた仕事を確実に消化(コナ)し…全ての準備が整った頃、タイミング良く一慶と祐介が戻ってきた。

「じゃあ、始めるよ。」

ボクは神経を集中させて、玲一の胸に左手を当てた。そのまま、ゆっくり奥まで手を挿し入れ、彼の《魂魄》に触れる。

狐が取り憑いた影響で、歪んで変形してはいるけれど…これと言って目立った変化は、見られない。

なのに。
明らかに、先程と違う『感じ』がした。

「どうなんだ、薙?」

 息を詰めて見守っていた烈火が、不意にボクを覗き込む。

「それが…。さっきまで生きていた筈の《狐霊》の気配が…無いんだ…。」

「喰われたのか?」

「──いや。体は、未だ辛うじて残っているようだけど…。ちょっと待って。」

 念入りに触診すると、魂の片側に違和感を感じる部分があった。鋭い刃物で切り付けられた様な、深い傷が見える。

その周囲がヒクヒクと痙攣していて…。
中に、『何か』が入り込んだ様な形跡があった。

 …羅刹の侵入口は、此処か…。
優しい過去の記憶が沢山詰まった、一番柔らかい場所だ。