一慶の説明に絶句する烈火。
…否、彼だけじゃない。 その場に居た全員が、慄然(リツゼン)となった。

 ──全ては、長い年月を掛けて巧妙に仕組まれた罠だったのだ。

千里が《狐憑き》になったのも…。
その後、呪殺を繰り返したのも、真織が闇に堕ちたのも、全てはシナリオ通りだった。

 天魔は、玲一に憑依したのではない。
向坂家そのものに、取り憑いたのである。

 長い長い沈黙を最初に破ったのは、鷹取だった。

「天魔は…羅刹を使って、玲一を殺すつもりだったと?」

「そうだ。」

「だが…玲一が死んでも、紫がいる。嫡子が健在な限り《土の星》は滅びない!」

「それは違う。」

 答えたのは、紫本人だった。

「僕は未だ、父から承(ウ)け取っていない秘術がある。それを継承しない限り、当主の座には就けない。」

「どんな術だね、それは?」

 鷹取が尋ねると、紫はふと睫毛を伏せて言った。

「鍵…」
「鍵??」

「黄泉比良坂の継承秘術だよ。それが無ければ、僕は《黄泉の番人》には成れない。向坂家は、事実上の断絶だ。《土の星》が滅びれば、敷地内にある黄泉比良坂の門が破られてしまう。冥界の亡者が、地上に溢れるよ。」

「成程…奴等の狙いは、それか。」

 一慶が神妙に首肯した。

「天魔は冥界の門を開放したがっている。その為に《土の星》を狙ったんだ。」

「しかしだな。黄泉比良坂は、他にも各地に点在している筈だ。何故、向坂家だけが狙われる??」

 訝る鷹取に、一慶が答えた。

「向坂家が護るのは、重罪人の通り道だ。その先は《第六天魔界》に直結している。つまり、奴らにとっての近道なんだよ。」