「な…薙!?」
「話を聞いて。大事なことなんだ。」

 そう言って彼の顔を覗き込むと、烈火は忽(タチマ)ち頬を朱に染めた。漸(ヨウヤ)く落ち着きを取り戻し始めた火の当主に、ボクは改めて話を切り出す。

「あの狐は、元は人間だったんだ。」
「ど、どういう意味だよ?」

「玲一さんが取り込んだ狐霊は、元の宿主である千里さんの魂魄と完全に同化していた。狐霊の『形』はしていても、中身は『人の味』がする。だから、羅刹の餌にされたんだよ。」

「餌…」

烈火の眉間が歪む。

 恐らく。玲一は、亡くなった千里の魂を、浄化したかったのだ。狐霊に侵蝕された部分を、綺麗にしてから、静かに霊界に送るつもりだった。

 だから千里の魂を、狐ごと自分の中に取り込んだのである。

だが…それが、却(カエ)って仇(アダ)となってしまった。天魔に付け入られる隙が生じてしまったのだ。

「だから…なんでそこに天魔が出て来るんだ!?全然解んねぇ!!」

「故意に、天魔を仕込んだ奴がいるんだよ。一連の事件には黒幕がいる。」

「マジかよ…何の為に、そんな…??」

「恐らく、六星一座の一角を崩す為だ。《土の星》は、その標的にされた。」