「こんな事が起きるとは、予想外にも程がある。人に憑かない天魔が、玲一の中に入り込むなんて…。まさか、真織が手引きしたのでは?」

「違う、兄さんじゃない!」

 紫が、ヒステリックな声を挙げた。
抑え切れない怒りを表す様に、固く拳を握っている。

「どうだかな。案外、図星じゃねぇか?」

 混ぜ返したのは、烈火だった。
冷めた眼差しで、紫に侮蔑の言葉を投げる。

「試しに本人を縛り上げてみりゃ良いんだよ。大体、真織くらい腕の立つ行者なら、狐を使ってそれくらいの事…」

「違う!兄さんは、そんな事しない!!」

 今にも泣き出しそうな顔で、キッパリと否定する紫。その背を優しく撫でながら、ボクは烈火を諌(イサ)めた。

「紫の言う通りだ。真織じゃない。無闇に仲間を疑うな。疑心暗鬼になれば、それこそ天魔の思うツボだ。」

「けどよ…!」
「烈火。」

 激する烈火の肩に、一慶の手が置かれる。

「少しは頭を使って考えろ。食人鬼の羅刹が、狐を喰らうなんて悪食(アクジキ)の極みだろう?本来起こり得ない事が起きているんだ。」

「解ってるよ、んな事は!!」

 烈火の苛立ちは、最高潮に達していた。
ボクは、彼の手を取り必死に宥める。

「落ち着いて、烈火。…お願い。」