そう。
確かにそれは、狐を貪り喰っていた。

あれが羅刹…。
真っ赤に熟れた眼と、炭の様に黒い肌。
赤茶けた長い髪を振り乱し、狐霊の腹わたを思うさま喰い荒らす──鬼。

 恍惚と喉を鳴らす浅ましい姿が、ありありと目に浮かんで…ボクは、ふるりと身を震わせた。

「信じられない…」

 篝が、自身の肩を抱き締める。

「人の中に羅刹を呼ぶなんて。一体、誰がそんな酷い事を??」

「…これは、人間の技ではない。天魔だ。玲一さんの中に天魔がいる。」

 ボクが答えると、烈火は堪らず頭を大声を挙げた。

「冗談じゃねぇ!そんな大物、どうやって伏せ込むんだよ??護摩でも焚かなきゃ収まらねぇぞ!?」

 彼の言う通りだ。
よりによって、一番厄介な奴が登場してしまった。しかも、予定より出番が早い。

こうなったら、護摩を焚いて調伏するしかないのだが…それには、相応の準備が要る。

 生身の体で、天魔に対抗出来るのは金目の神子ただ一人だ。

だけど…それを行うには、ボク自身も沢山の修行を積まねばならない。この場で、今直ぐ解決出来る問題ではないのだ。

「困りましたね。」

 八方塞がりの中。思慮深い水の当主が、腕を拱(コマネ)いて言う。