緩急自在な技の冴え。

結んだ刀印を鞘に納める所作を終えると、篝は慌ててボクを見遣(ミヤ)る。

「どうしましょう…少し強過ぎました?」

「いや、これで良いんだ。上手いよ、篝。良くやってくれた、有難う。」

 ボクが微笑むと、篝はホッとした様に頷いた。

「…なぁ。そろそろ教えてくれよ、薙。狐じゃないって言ったよな?じゃあ今のは何なんだ??」

 突然、会話に割り込んで来たのは烈火である──だけど。神子の目で視た『あれ』を、何と説明すれば良いのか、ボクには解らなかった。

 生まれて初めて視る姿…。

あれが一体何なのか、皆目見当も付かない。そもそも、名前が在るのかどうかも…

「羅刹(ラセツ)だよ。」

 そう答えたのは、姫宮庸一郎だった。

やはり、この人は《目》が利く。
ボクにしか視えなかった憑依霊の本性を、玲一が気絶して目眩(メクラ)ましが解けた途端、即座に見破った。

「ちょっと待てよ、庸一郎。羅刹だぁ?鬼の類じゃねぇか!何でそんなのが出て来るんだ!?」

 烈火は、遣り場の無い苛立ちと焦りを、庸一郎に向ける。だが…

「落ち着きなさい、烈火くん。我々にとって、羅刹は、別段珍しいものではない筈だ。」

「…そりゃまぁ、そうだけどよ…」

 羅刹──鬼?
そんな風に呼ぶのか、あれを…??

「お話下さい、首座さま。皆が知りたがっています。貴女が金目で御覧になった一部始終を…。」

 庸一郎に促されて──。
ボクは、たった今霊視したばかりの光景を説明した。

「…狐が喰われたんだ。」
「喰われた?」

「玲一の中に、人間に良く似た化け物がいた。荼吉尼天(ダキニテン)の咒(ジュ)で倒れた狐霊を、貪り喰っていたんだ。…狐は、奴を誘(オビ)き寄せる為の『餌』にされたのかも知れない。」

「な…っ!?」

 ボクの言葉は、その場に居た全員を一瞬で凍り付かせた。