「どういう事、紫?」

 説明を求めるボクに、紫は神妙な面持ちで答える。

「言葉の通りだよ。父さんは、何者かに憑依されている。だけど、複雑な目眩ましの暗示が掛かっていて、霊視が利かないんだ。」

「そんな…!」

「これはただの憑依霊じゃない。行者の目をも欺(アザム)く力がある。でも、神子の金目なら視える筈だ。」

「解った…やってみる。」

 ボクは、直ぐさま霊視を試みた。

玲一の魂魄は、狐霊に因って受けたダメージで、青く膨れ上がっている。歪(イビツ)つに変形したその中に、《稲綱狐》以外の何かが蠢いていた。

 何だ、あれは?
狐を喰らっている!?

怖ましい光景を脳裡から追い出す様に、ボクは激しく頭を振った。

「違う…!! 一慶、これは狐じゃない!」
「じゃあ何だ!?」
「解らないっ!」
「あぁ!?」

 暴れる玲一に揉みくちゃにされながら、一慶は茫然とボクを見詰めた──が、ややあって。気を取り直す様に、声を荒げる。

「じゃあ、せめて霊縛してくれ!こっちは手が塞がっていて印が組めねぇ!!」

 それもそうだ。
言われて初めて気が付いた。
だけど、咄嗟に反応が出来ない。

神子の知識は膨大で、一体どの霊縛術が、この場で最も有効なのか──直ぐに判断が付かなかった。