暫くして一慶が戻って来ると、それに続いて豪華な膳が運ばれて来た。

天ぷら、刺し身。
旬の野菜を使った酢の物。
ゴマ豆腐に、鮑とウニのゼリー寄せ。
それから白子のお吸い物──。

凄い。なんて豪華な昼食だろう。
まるで祝い膳だ。

「さぁ、食うか!」

 おっちゃんの一声で、一斉に食事が始まる。

「わぁい!いただきまぁす!」

苺は早速、車海老の天婦羅をパクついていた。それに続いて、ボクも恐る恐る箸を付けてみる。

 美味しい。だけど…
一慶の膳だけ料理が違うのは、何故だろう?

「ねぇ、一慶だけ御膳が違うよ?」
「あぁ…。俺は今、潔斎中だから。」
「けっさいって?」

「修行中って意味だよ。」

 質問に答えてくれたのは、おっちゃんだった。ボクは首を傾げながら訊ねる。

「修行って、何の?」

「うちは《行者》の家系だからな。新しい『行』を修得する時は、潔斎して身を浄めるんだ。」

「…行者…」
「兄貴から訊いていないか、一族の話?」
「少しは──」
「少し?少し…か、そうか…」

 おっちゃんは箸を二本、口に咥えたまま『う~ん』と唸って上を向いた。

『やっぱり何にも言ってねぇんだなぁ、兄貴の奴』

そんな事を、ぶつぶつと呟いている。
それから目の端でチラリとボクを捉えて…「どこまで知ってる?」と訊ねた。

「…どこまでって。本家の屋敷が不必要に大きい事だとか、親戚が異常に多いとか?あとは、古い仕来たりに縛られた家だとか…そんな事しか…」

「──っかぁ!」

 おっちゃんは、やおらガクリと頭を垂れて舌打ちをした。

「つまり、何も知らないんだな?」
「多分、そう…。」

「よし解った!んじゃ今から、おっちゃんが一族の事を全部教えてやる。いいか?ゆっくり説明するから、聞いたまんま受け止めろ。下手に深読みすると、発狂するぞ?」

 …発狂って…
嫌だな、そんな一族。

そうは思ったが、流石に聞かぬわけにはいかない。何しろ、苺と祐介の不思議な力を見せ付けられたばかりである。

 あんな事が出来る人達が自分の親族だなんて、俄かには信じ難い。

一慶の修行の件も気になるし…何より、相続問題についての詳しい説明が欲しかった。