皆の注目が一身に集まる。
期待する者、鬼胎を抱く者──。
様々な惟(オモ)いが錯綜する中、ボクは静かに祈念(キネン)に入った。

狐霊を遵(シタガ)えるという女神・荼吉尼天だを、強く強く観念する。

 迷える魂を救わせ給え。
正しき仏の道に導き給え…と、一心不乱に高めた祈りは、やがて神をも動かす力となった。

 荼吉尼天の意志を感得して、ボクは毅然と陀羅尼を唱える。

「ナウマク・サマンダボダナン・キリカ・ソワカ!」
「ぅあ…っ」

 刹那。玲一が短い悲鳴を挙げた。
雷に撃たれた様にビクンと、大きく体を仰け反らせる。

 加持の効験は、絶大だった。
玲一の魂魄から狐霊が落ちた感覚が、はっきりと伝わって来る。

 だけど…何故だろう?
狐霊が離れた瞬間、微かな違和感を覚えた。
それに、この異様な殺気は──??

 怪しい気配を察知したのか、テンが玲一の周りを彷徨(ウロツ)き始めた。全身の毛を逆立て、フゥゥと威嚇する。

 その時だった。

「うっ!…ぐああぁ!!」

突如、玲一が叫び声を上げた。
髪を振り乱し、胸を激しく掻き毟る。