「一慶。此方に来て力を貸して。」

 ボクが言い終わる前に、一慶は行動を起こしていた。玲一の元に歩み寄り、あっという間に体を支え起こす。

「いいぜ。いつでも始めてくれ。」

 以心伝心のこうした振る舞いは、思いの外、心地が好い。ボクは、静かに目を閉じて、玲一の胸に手を翳した。

 直ぐに、彼の《魂魄》が視えてくる。

「やはりそうか…。玲一さん。貴方、千里さんの狐霊を取り込みましたね?」

 玲一は、朦朧と頷いた。
目の焦点が合っていない。
青醒めた顔で、頻(シキ)りに体を揺らしている。
典型的な憑依現象だ。

 明らかな彼の異変に、鷹取が重々しく口を開く。

「どういう事です、首座さま?」

「言葉の通りだ。玲一さんは、狐霊に憑かれている。」

「そんな…何故!?」

「詳しい説明は後だ。直(ス)ぐ加持(カジ)に入る。」

「首座さま御自ら《狐祓い》をなさるのですか?今、此の場で…??」

「当然だ。ボクが金目で居られる内にケリを付ける。一切の手出しは無用。その代わり、自分の身は自分で守ってくれ。」

「しかし…!」

「頼むから言う事をきいて、鷹取さん。狐は、まだ良い。厄介なのは、その次に来る奴なんだ。」