勿論、異を唱える者など無い。
首座命令だ、当然だろう。

ボクは祐介を振り返り、真織を別室で看てやって欲しいと告げた。

「そう言うと思ったよ。」

 全て心得ている様に微笑む、祐介。
真織の体を支えて、静かに退室する。
暫し、その背を見送ると…

「さて、次は此方か。」

そんな呟きが、口を突いて出た。

 神子の本地(ホンジ)に戻っている時…。
ボクは、口調も態度も横柄になる様だ。

こんな高飛車な自分は、自分じゃない。
こういう言動も、ボクの本意じゃない。
だけど、口が体が勝手に動くのだから仕方が無い。

 神子の内性(ナイショウ)に突き動かされる様に──ボクは視線を巡らせた。金目が見詰める先には、グッタリと脱力する玲一の姿がある。

 蔡場篝と姫宮庸一郎が、その両肩を支えているが、容態は極めて深刻だった。

「首座さま。おじ様の中に…何かが」
「解っている。」

 心配そうな篝の言葉を遮って、ボクは言った。

「この場はボクが収める。篝は、玲一さんから離れなさい。庸一郎さんもね。」

 二人は、無言でその場を離れた。
そこへ、入れ換わる様に烈火がやって来る。

「何だよ?玲一が、どうしたって??」

気易い口調で覗き込む烈火。
茶化す様なその態度に、ボクの中の『神子』が、苦言を呈する。

「控えろ、烈火。この場は神子が収めると言った筈だ。聞こえなかったか??」

「へいへい、聞こえましたとも。全く…。神子さまモードのお前にゃ敵わねぇや。」

 烈火は、『お手上げ』と言わんばかりに肩を竦めた──が。直ぐに真顔で耳打ちして来る。

「必要だろう?手伝うぜ??」

 ボクが何をしようとしているのか…彼は既に、知っている様だった。ならば、遠慮なく手を貸して貰おう。

「烈火、場内に『火』を絶やすな。内側から追い立てるから包囲網を張ってくれ。」

「了解。」

 烈火は、直ちに《補助結界》を張った。
印を結び、《火天》の陀羅尼(ダラニ)を唱えれば、肉眼に映らない炎が上がり、場内を二重に結界する。

 流石は、《火の星》の現当主。
完璧な包囲網だ。