あぁ。この景色をボクは知っている。
…そう感じた途端。吸い寄せられる様に、窓辺に歩み寄っていた。

「この木、うちの庭にもある。確か…姫沙羅?」

「よく知っているな。なかなか風流だろ?」

おっちゃんがボクの隣に並んで、姫沙羅の木を見上げた。

「なんだか凄く懐かしい。」

「だろうなぁ。お前ん家の庭にある姫沙羅は、これを株分けしたものだからな。」

「え?」

 それを知って改めて見上げた姫沙羅の木は、ボクの問い掛けに答える様に、一斉に葉を鳴らした。

サワサワサワ……
サワ…サワサワ…

耳慣れた音がする。
いつもボクの身近にあった音だ。
幼い頃から変わらない…見上げる度に優しく応えてくれる、沙羅の葉の唄。

「なにか聞こえたか?」
「…『お帰り』って言われた気がする。」
「そうか。」

 そこへ苺が寄って来て、おっちゃんの腕に獅噛み付いた。

「孝ちゃん。苺、お腹空いたっ!」

「お、そうだったそうだった。すぐに膳を運ばせるからな。」

「いいよ。俺が厨房に頼んで来る。」

 一慶が踵を返して部屋を出て行くと、おっちゃんはボクの肩をポンと叩いて、部屋の中に導いた。

「ま、適当に座れや。疲れたろ?」
「…うん。」

 確かに疲れた…いろんな意味で。