尚も迷うボクに、祐介が畳み掛ける。

「心配は要らないよ。真織さんの体は、僕が霊的に保持する。心因性の疼痛で、命を落とす事は無い。寧ろ、痛みを長引かせる方が危険なんだよ。」

「…解った。このまま続ける。」

 分霊した魂魄を手に包むと──ボクは意を決して、それを引き抜いた。

『オン、バザラユセイ、ソワカ…オン、バザラユセイ、ソワカ』

 行者を守護するという普賢延命菩薩の真言を、何度も何度も繰り返し唱える。

すると─…

皮膚を突き破る様な生々しい感触と共に、彼の魂魄の半分がズルリと引き抜かれた。

「ぅぁあっ!」

 忽ち、絶叫が響き渡る。

『魂』が『肉体』から切り離された激痛に、真織は畳の上を転げ回った。

一慶が必死にそれを押さえ、祐介は薬師如来の真言を唱える。

「薙!こっちは任せて良い。お前は修法を続けろ!!」

 暴れる真織を畳の上に捩じ伏せながら、一慶が叫んだ。彼等を信じて…ボクは次の手順を踏む。

 漸く手に入れた魄の半分──これを。

両手でそっと包み込み、小さく丸めて口に含む。そうして、そのまま一気に喉に流し込んだ。

「──!!ぐっ、あ!」

 抑えても洩れる呻き声。

込み上げる嘔吐、不快と嫌悪。

他人の魂が、体内に入って来る…その違和感と異物感に、ボクは激しく噎せ返った。

 …うぇ、気持ち悪い…。

此処までのものだとは思わなかった。

これが、魂を呑む感触なのか…。

生暖かい塊が、ビクビクと蠢きながら、体内を通り過ぎて行く。

想像以上だ、なんてグロテスクな…。

まるで、生きた蛙を丸ごと飲み込んだ様だ。

 奇妙な感覚に翻弄されている間にも──分霊された魂魄は喉から胸を通り過ぎ…やがてボクの魂魄に辿り着いた。

 二つの命が出会い、ピタリと張り付く。
刹那。全身に焼ける様な痛みが走った。
まるで電撃を喰らった様に、体がビクビク痙攣する。

「っ……あぁ!」

 ボクは堪らず膝を着いた。
二つの鼓動が微妙にズレて聞こえる。

乗り物酔いにも似たその不快感に、ボクは口元を押さえて蹲(ウズクマ)ってしまった。