そうして剥き出しの魂に触れていると、持ち主の『素』の部分が見えて来る。彼の魂魄もまた、本人すら知らない多くの真実を、ボクに語ってくれた。

 真織は、想像以上に弱っている。
触れれば崩れる、ボロボロの魂魄…。
今生きているのが不思議なくらいだ。

 ──行者だから。
仏尊に帰依を誓った身だから、その功徳で『生かされていた』のだ。

廃行者にされてしまったら、彼はもう生きてはいられないだろう。きっと自ら、死を選ぶ。それだけ切迫している。

真織は、もう随分長い間そんな疲弊した状態にあった。魂のアチコチが擦り切れ、歪み、一部は硬い痼(シコリ)になっている。

 まるで、癌細胞に蝕まれているかの様だ。
魂魄の最深部まで、悪霊に侵食された痛みが、ヒリヒリと伝わって来て…辛い。

 人生の半分以上を、狐霊と共に生きてきた真織。彼は、こんなにも疲れている。この人が抱えている孤独と痛みは、皆が思う以上に深い──それを。

今まで、誰も解ってやれなかった…否。

亡くなった千里さんだけは、彼の全てを理解していたのだろうか?

「今、助けるからね。」

 今救わねば失われる命が、此処に在る。
ボクは、静かに真言を唱えた。

『ノウマク、サンマンダ、バザラダン、センダン、マカロシャダヤ、ソハタヤ、ウンタラタ、カンマン…』

 長く複雑な真言を、子守唄の様に詠唱しながら、ボクは、魂魄を握り締める手に力を籠めた。