全身全霊の祈りは、やがて、彼(カ)の女神に通じた。荼吉尼天(ダキニテン)の威神力(イジンリキ)が活現し、周囲が皓(シロ)く、明るくなる。
総毛立つ様な快感。
神子の本地が、ボクを突き動かす。
──これが、神通変化(ジンツウヘンゲ)と呼ばれる力である事を、体感で悟(シ)った。
今…ボクの金目には、不思議な光景が見えている。
真織の胸の奥深くに煌々と輝く、無垢なる魂魄──その中で。一際妖しい輝きを放つ《狐》が、尖った鼻先を上にして、プカプカと浮いていた。
…どうやら。荼吉尼天咒の威力で、失神してしまったらしい。
成功だ。これで良い。
致命傷を負わない程度にダメージを与えるのが、当初の目的だったのだから。
そうして改めて霊視すると、狐霊は実に奇妙な形をしていた。
ほんのり紅く輝く体。
前足はあるが、後足は無い。
まるで、長く棚引く旗の様だ。
尾は三ツ又に分かれていて、各々別の方向を向いている。
通常。白狐、銀狐(ギンコ)、金狐(キンコ)、天狐(テンコ)などの《霊格》の高い善狐霊(ゼンコレイ)達は、姿が見えないと言われているが…。
これ程ハッキリとした『異形』を顕わにしているのだから、コイツは《善狐霊》ではない。
離れで見た限り、《野狐》は鬼火の形をしていたし、《管狐》は、真織の術具である管笛《くだぶえ》に封じてあった。
…ならば、残るは一つ。
こいつの正体は《稲綱狐》だ。
一人の人間に一匹ずつしか憑かないと云われる、最も厄介な《悪狐霊》。
丁度良い、コイツにしよう。
総毛立つ様な快感。
神子の本地が、ボクを突き動かす。
──これが、神通変化(ジンツウヘンゲ)と呼ばれる力である事を、体感で悟(シ)った。
今…ボクの金目には、不思議な光景が見えている。
真織の胸の奥深くに煌々と輝く、無垢なる魂魄──その中で。一際妖しい輝きを放つ《狐》が、尖った鼻先を上にして、プカプカと浮いていた。
…どうやら。荼吉尼天咒の威力で、失神してしまったらしい。
成功だ。これで良い。
致命傷を負わない程度にダメージを与えるのが、当初の目的だったのだから。
そうして改めて霊視すると、狐霊は実に奇妙な形をしていた。
ほんのり紅く輝く体。
前足はあるが、後足は無い。
まるで、長く棚引く旗の様だ。
尾は三ツ又に分かれていて、各々別の方向を向いている。
通常。白狐、銀狐(ギンコ)、金狐(キンコ)、天狐(テンコ)などの《霊格》の高い善狐霊(ゼンコレイ)達は、姿が見えないと言われているが…。
これ程ハッキリとした『異形』を顕わにしているのだから、コイツは《善狐霊》ではない。
離れで見た限り、《野狐》は鬼火の形をしていたし、《管狐》は、真織の術具である管笛《くだぶえ》に封じてあった。
…ならば、残るは一つ。
こいつの正体は《稲綱狐》だ。
一人の人間に一匹ずつしか憑かないと云われる、最も厄介な《悪狐霊》。
丁度良い、コイツにしよう。