テンを肩に乗せると、ボクは中央に端座している真織の前に進み出た。
ピリピリと肌を刺す緊張感。
真織の中に居る《狐霊》が、テンの霊気を関知して過剰に反応している。
宛ら、太陽を取り巻くフレアの様に…。
緋色の尾を引く霊光がシュウシュウと音を立てて、真織の全身から噴き出していた。
「真織…」
「はい。」
「貴方の狐を分けて貰うね。」
「はい。首座さまの御心のままに。」
静かに合掌する真織を前に、ボクは意識を集中した。
白い月を飲み、体の中心で凝縮させる。
一度閉じた目を再び開くと、視界が金色に変わっていた。
「此処までは順調だな。」
「問題は、この次…。」
一慶と祐介の密やかな会話が、研ぎ澄まされた心耳に聞こえる。金目になったボクの耳は、今や、どんな音でも拾う高性能の集音器だ。
巧く力を開放出来ている。
ここまでは、完璧だ。
難しいのは此処から先である。
印を切って真言を唱え、《天部の神》を迎え入れるのだ。
ボクは、静かに手を掲げた。
拳を握った右手の上に、全指を揃えた左掌を上向きに翳す。
これは、荼吉尼天(ダキニテン)の印契だ。
狐を卷属として従える、荒ぶる女神である。
元々は、人間の心臓や肝を好んで食する《夜叉》だったが、《大日如来》に降伏されて改心し、仏の守護者となったヒンドゥ教の鬼女だ。
荼枳尼天には、狐を制する力がある。この女神の功徳を頂いて、ボクは真織の中の《狐》を伏せ込むのだ。
これは以前、向坂家の離れで真織と対決した際に、一慶が使った《降伏法》である。一度目にしたものだから、手順や作法は覚えていた。
あの時の一慶を思い出しながら──ボクは、真織と向き合った。心を澄ませ、荼吉尼天の真言を唱える。
「ナウマク・サンマンダボダナン・キリカ・ソワカ!」
来たれ、荼吉尼天。
荒ぶる天部の女神。
願わくは、その猛き鬼女の威力を以って、彼(カ)の《狐霊遣い》を救い給え!
ピリピリと肌を刺す緊張感。
真織の中に居る《狐霊》が、テンの霊気を関知して過剰に反応している。
宛ら、太陽を取り巻くフレアの様に…。
緋色の尾を引く霊光がシュウシュウと音を立てて、真織の全身から噴き出していた。
「真織…」
「はい。」
「貴方の狐を分けて貰うね。」
「はい。首座さまの御心のままに。」
静かに合掌する真織を前に、ボクは意識を集中した。
白い月を飲み、体の中心で凝縮させる。
一度閉じた目を再び開くと、視界が金色に変わっていた。
「此処までは順調だな。」
「問題は、この次…。」
一慶と祐介の密やかな会話が、研ぎ澄まされた心耳に聞こえる。金目になったボクの耳は、今や、どんな音でも拾う高性能の集音器だ。
巧く力を開放出来ている。
ここまでは、完璧だ。
難しいのは此処から先である。
印を切って真言を唱え、《天部の神》を迎え入れるのだ。
ボクは、静かに手を掲げた。
拳を握った右手の上に、全指を揃えた左掌を上向きに翳す。
これは、荼吉尼天(ダキニテン)の印契だ。
狐を卷属として従える、荒ぶる女神である。
元々は、人間の心臓や肝を好んで食する《夜叉》だったが、《大日如来》に降伏されて改心し、仏の守護者となったヒンドゥ教の鬼女だ。
荼枳尼天には、狐を制する力がある。この女神の功徳を頂いて、ボクは真織の中の《狐》を伏せ込むのだ。
これは以前、向坂家の離れで真織と対決した際に、一慶が使った《降伏法》である。一度目にしたものだから、手順や作法は覚えていた。
あの時の一慶を思い出しながら──ボクは、真織と向き合った。心を澄ませ、荼吉尼天の真言を唱える。
「ナウマク・サンマンダボダナン・キリカ・ソワカ!」
来たれ、荼吉尼天。
荒ぶる天部の女神。
願わくは、その猛き鬼女の威力を以って、彼(カ)の《狐霊遣い》を救い給え!