「…紫…」

 消え入りそうな玲一の呟き──だが。
当の紫は、槍玉に挙げられ憔悴している父と兄には目もくれなかった。

すたすたと会場を横切るや、ボクの傍らに歩み寄り、何の躊躇も無くペタリと座り込む。

「…あの、紫?」

「ふふ。驚いた?薙の『ペット』が見たくて来たんだ。僕にも立ち会わせて?」

「だけど…」
「大丈夫、邪魔はしないから。」

 紫との会話を、祐介が聞き咎めた。

「ペットって何の話だい、カズ?キミは知っているんだろう??」

「まぁな。見てのお楽しみだ。」
「……。」

 責める様な祐介の視線を、一慶は飄々と躱わしていた。

この遣り取りに、場内は俄かにザワめいたが…ボクが襟元からペンダントを取り出した途端、ピタリと私語が止んだ。

 羯摩(カツマ)を象(カタド)ったペンダントトップ。その上に、指で梵字を書いて──命じる。

「出ておいで、テン。」

 ピィ──!

甲高く一鳴きして、羯摩の中心から、白い貂が飛び出した。

「何だ、あれは?!」
「貂?」
「白貂か、それにしては妖気が無い…」
「半ば神霊化しているのか。」

 会議場が大きくどよめいた。
六星達にとっても、貂の神霊は珍しい存在の様だ。

「カズ。ペットって、あれの事かい??」
「あぁ。巧く飼い慣らしてあるだろう?」

「全く…驚かせてくれるよ。僕の居ない間に、何をやっているんだ君達は?」

 嘯(ウソブ)く一慶に呆れた様な嘆息を投げて、祐介は高く腕を拱(コマネ)いた。