安らかな気持ちで、神のお召しを待っていると、突然ピタピタと頬を叩かれた。

「こらっ!こんな所で寝ちゃダメでしょう!? 起きなさい──起きてってば!!」

 天使が、ボクの体を激しく揺らす。
鼻を摘まみ、耳を引っ張り、頬をムニムニと揉み上げる。

随分と手荒な介抱だ。ぞんざいに扱われて、ボクは少しばかり不機嫌になる。

 …なんて乱暴な天使だろう。

生前の信心が足りなかったボクに、非があると言われれば、それまでだが──こうして天に召されたからには、もっと優しく対応してくれても良さそうなものを。

…すると天使は、突然、声を荒らげた。

「ねぇ!いい加減、目を覚ましてよ!あんた、マジでヤバいってば!! せめて日陰に移動しなさい!本当に死んじゃうわよ!?」

 ──『本当に死んじゃう』?
つまり、ボクはまだ生きているのか??

言われてみれば、確かに。
遠くで、人のざわめきが聞こえる。
此処は未だ、道の真ん中だ。焼けたアスファルトが直かに肌に触れて、ジリリと熱い。

日陰…
そうだ、早く日陰に移動しなければ。

天使の『お告げ』の通り、『本当に死んでしまう』。その上、通行の妨げにもなる。迷惑行為と道路交通法違反で、人の道すら外れてしまう。

 ボクは、渾身の力で身動(ミジロ)ぎした。

だが、立つどころか、寝返りも打てない。小さな手が懸命にボクの腕を引っ張るけれど…グタリと脱力した体は、一ミリも動かなかった。

 四肢に力が入らないのは、何故なのか?
こんなに頑張っているのに、指の一本も動かせない。まるで、自分の身体ではなくなったかの様に──

(あぁ…もう、これ以上は…。)

不意に、真っ暗な絶望が舞い降りる。
ぐったりと力尽きたまま、ボクは死を覚悟した。

最早、これまで。
残念だが、ボクは運が無かったのだ。

だから、天使さま。
そんなにボクを引っ張っらないで。
肩が…脱臼してしまうじゃないか…。

 意識が薄れ掛けた、その刹那──

「動けないのか?困った奴だな。」

突然、見知らぬ男の声が聞こえて、体が、ふわりと軽くなった。

両手と両足が宙に浮いている。
誰かがボクを持ち上げている。
一体、誰が──?