鷹取は、もう何も言わなかった。
ボクはそれを承諾の意と捉え、小さく頷き返す。

心配そうな顔、顔、顔。
だけど引き返すつもりはない。

「──じゃあ、始めるね。先ず、真織の体から《狐霊》を除きます。何が起きても、決してボクの体に触れないで下さい。狐が憑依すると危険だから。」

「……。」
「……。」

 皆が無言で頷いた。息を潜めて、事の成り行きを見守っている。静まり返った場内で、ボクは、結界を張る為に意識を澄ませた。

 北、南、東、西。
各方角に向け、一回ずつ指を鳴らす。

パチン!パチン!
パチン!パチン!

指を鳴らして四方を固めていき、最後に《中央》を締め固める。

 パチン!
会議場の空気が、キンと張り詰めた。

 よし…!
《簡易結界》だけれど、なかなか上手く出来たと思う。練習よりも完成度は高い筈だ。

安堵した刹那、部屋の片隅で『パチパチ』と手を叩く音がした。

「え…!?」

 慌てて振り返れば、視界の片隅に意外な人物を発見する。いつから其処に居たのか…会場内に、向坂紫が紛れ込んでいた。

「上手い上手い!綺麗に四方を囲えたね、薙?とても簡易結界とは思えないよ。」

「ゆ、紫?? どうして此処へ!?」

 驚きのあまり裏返るボクの声に、玲一がピクリと反応する。真織も弾かれた様に顔を上げ、視線を巡らせた。