ボクの突然の提案に、裁定者達の間から大きなどよめきが起きた。

 暫しの混乱の後──。
姫宮庸一郎が、遠慮がちに進言する。

「首座さま…。その秘術は、数百年もの間封じられていた禁断の呪法の一つです。それを使う事で、御身に危険が無いとは言い切れませんよ?」

「えぇ。良く解っています。」

 ボクは穏やかに微笑んで見せた。
すると突然、鷹取が──

「いいや!貴女は何も解っていらっしゃらない!!御身が何れだけ危険に晒されるか…貴女自身、お解りではない筈です!」

 グイと膝頭を進めると、鷹取は、ボクの目の前に身を乗り出してくる。

「狐霊遣いは両刃の剣だ。心を許せば、忽ち掌を返してくる。仮に秘術が成功したとしても、傀儡が貴女を裏切らないという保証は、何処にもありません。もし真織が貴女との盟約を破れば、ご自身にも危険が及ぶのですよ!?」

「はい。全て心得ています。」

「貴女に…!貴女に《狐憑き》の何が解ると云うのですか!?」

 鷹取は苛々と語気を荒げた。
鬼気迫る様子に、ボクは思わず息を飲む。

 怒りに震えるこめかみ…。
だがそれは、彼の優しさの裏返しだった。