「一切悉有仏性(イッサイシツウブッショウ)…。そんな事まで、良く学ばれましたね。確かに仏の道に添うならば、我々は彼に『更正の道』を付けてやるのが、慈悲の実践というものでしょう。…ですが、その様な前例はありません。闇に堕ちた行者は厳罰に処する…それが、今までの遣り方です。」

「前例が無いなら創れば良い。『今までの遣り方』が、必ずしもベストな方法だとは限らない。そうでしょう?」

「道理です。それでは実際、どのような具体策を示して頂けるのですか?」

 鷹取は、いよいよ核心を突いてきた。
ボクは深く息を吐くと、裁定者一同をグルリと見回して言った。

「向坂真織を、首座直属の『密偵』として、生涯ボクの配下に置きます。行力の全てを、ボクの為だけに使わせる…つまり、塊儡(クグツ)です。」

「塊儡術(カイライジュツ)…ですか?」

 呻く様に、喉から声を絞り出したのは、《水の星》の現当主・姫宮庸一郎だった。

「神子が行者の力を吸い取ると云う、あの禁忌の法を…貴女がなさるのですか?」

「吸い取る──か。確かに、そういう解釈が罷(マカ)り通っている様ですね。でも実際は違う。」

「実際は…?」

「神子が《傀儡術》を修したのは、一番近くても百年以上昔の事だ。皆さんの中にも、実際にそれを目にした者はいない筈です。」

「それは─…」