「鷹取さん。貴方の仰有る様に、呪殺は赦されざる大罪だ。ボクも、それを黙認するつもりは無い。だけど…」

「だけど?」

「罪を償う為に行力を返還し、僧侶の資格を剥奪し…その後、彼はどうなります?」

「ご心配には及びません。首座さまの決済さえ頂ければ、処分は速やかに済ませますよ。」

 …厭な言い方だ…。
まるで、要らない物を棄てる様な…。

「行者を廃業した者の行く末は、ボクも《六星天河抄》を学ぶ中で、充分に理解したつもりだ。でもそれは、あくまで過去の記述。まさか今時、昔の倣わしに添って、廃人となるまで座敷牢に閉じ込めるなんて事は…?」

「勿論、それは一昔前の話です。今では、監禁や幽閉などは形ばかりの事で、実際には行われておりませんよ。事に依っては、我々が罪に問われ兼ねませんからね。昨今の処分の在り方は、行力の勧請と一座からの除籍…そして『記憶の操作』です。」

 記憶の操作──つまり、都合の悪い記憶を『消す』という事か。

全てを白紙に戻して、新しい人生を歩ませる為に…だけど、それでは駄目だ。根本的な解決になっていない。

 ボクは、毅然と顔を上げて言い放った。

「それは、真の解決策じゃない!臭いものに蓋をしただけだ。本当に適切な処置とは言えない。」

「…どういう意味でしょう?」

「ボクなら、もっと効果的で具体的な贖罪(ショクザイ)の方法を、彼に提示します。」

「ほぅ?? それは、どのような?」

 鷹取は、面白そうに片眉を吊り上げた。

『言えるものなら言って御覧なさい』

慇懃無礼な眼差しが、明らかにそう言っている。どうやら、巧くボクの挑発に乗ってくれた様だ。

 ボクは、気を落ち付けて話を続けた。

「記憶を消せば、彼の罪も消せますか?喩え『記憶を操作』したところで、彼は、自らの罪を免れる事は出来ない。何れは地獄に堕ちて、償う事になる。それまでの間…彼は殺人の自覚も無いまま、医師として何食わぬ顔で、それなりに幸せな人生を全うするんだ。これでは、本当に罪を償わせた事にはならない。違いますか?」

「───。」

 初めて、鷹取が黙った。

皆が、驚いた様にボクを見詰めている。