彼の理路整然とした主張は、ボクにとって大きな障壁だった。

真織の心情を汲み取る様な発言をしようものなら、空かさず、行者の《戒律》を説いてそれを否定する。

 何度も話の腰を折られて、篝などは、すっかり萎縮してしまっていた。発言どころか、今にも泣き出しそうな顔になっている。

 流石は、海千山千のベテラン行者。
想像以上に手強い。
どんなに異義を唱えても、多勢に武勢で話の流れは圧倒的に向こうのペースだ。

 一慶が言った通り…。
『精神論』では、この流れは覆せない。

あぁ…。せめて今この場に、姫宮蒼摩がいてくれたら、どんなに心強いだろう。彼なら、理論武装した鷹取とだって、対等に渡り合えるのに──。

「ご一同の意見も出揃った様ですので、そろそろ裁定を下しましょう。」

 鷹取が、勝ち誇った顔で宣言する。
真織は勘念した様に、静かに目を閉じていた。

「待って下さい!」

 ボクは、堪らず声を張り上げる。
一同の視線が、一斉に集まった。

「ボクは、彼の厳罰処分には反対です。」
「はい…?」

鷹取が、怪訝に眉間を歪めてボクを見た。

「首座さま。今、何と仰有いました?」

 …水を打った様に静まり返る会議場。
ピリピリとした緊張が漲る。

ボクは、渇いて張り付く喉の奥から、必死に声を絞り出した。

「真織の処分は反対だと言ったんだ。皆さんは、彼の行神力を取り上げる事で、全てが解決すると、本気で考えていらっしゃるんですか?」

 鷹取は、厳つい顔を右に傾けると、一語一語刻み付ける様に答えた。

「これはまた…驚きましたな。突然、何を仰有るかと思えば…。勿論、皆同じ意見ですよ。向坂家の長子とは云え、真織の犯した罪は重い。呪殺は殺人です。彼は仏に仕える身でありながら、人の道を外れ、仏の道をも踏み外した。これは、戒律に触れる大罪です。法で裁けぬなら、み仏の御名において我々が裁く…。一座の名誉と正義を護る為、ずっとそうして参りました。」

 正論を盾に、真っ向から対決の姿勢を見せる鷹取。

射抜く様な視線が、小娘の浅知恵を嘲笑うかの様に注がれる。だがボクは怯まなかった。